患者に保険診療が定着することの影響

1.患者に保険診療が定着すること
患者さんからすると、これまで医院側から「保険診療でもできます」と言われており、かつ窓口会計が7割引の状態から、10 割負担の自費にシ
フトするのは、支払いのハードルが一気に上がります。医院側からしても、患者さんに「あそこは自費を勧める医院」と言われることに、恐怖心が生まれるでしょう。

2.スタッフに保険診療が定着すること
クリニックに保険診療が定着した後から、患者さんに自費診療を提案することに対して、スタッフのメンタルブロックが大きくなります。
「保険でも」と教育を受けてきて納得してきたでしょうから、「やっぱり自費で」と言われても、勧め方も自費の良さもわからない……というのが本音だと思います。

3.マーケティングとブランディングの知識と価値観が、経営者に身につかないこと
これは、医療業界特有のものといってよいでしょう。
保険診療は窓口負担が少ない、かつ患者側は主訴があって来院するため、医院側が集患のための訴求活動を経験しないことが、保険診療に隠れた経営の“弊害”の1つです。これまでは医院側から呼ぶこと(営業・マーケティング)をしなくても、ある程度集患できてしまうことが多かったので、医療業界ではマーケティング戦略を軽視する傾向にあったことは否めませ
ん。
これら3つのような弊害が潜んでいるがゆえに、保険診療から自費診療にシフトする際に、思わぬ落とし穴が発生することになります。
開業当初は、とにかく集患したいことや、まずは今までやってきた診療をしようということで、考え方が「最初は保険診療で集患、診療して、経
営が軌道に乗ったら、徐々に自費を増やしていこう」という方針になりがちです。

しかし、保険から自費へのシフトは、同時に経営方針のシフトでもあるため、根本からプロジェクトプランの見直しをする必要があるほど
のフェーズになります。
加えて、マーケティング思考が不十分なままでは、集患や訴求の方法がわからず、結果として、したい診療に舵を切ることができません。
本来したい診療へのシフトは、ターゲットとなる患者層も変わりますから、保険から自費へのシフトチェンジに想像以上に難航し、アプローチが
わからないと、「このまま保険診療でいいかな…」という、現状維持の流れになるでしょう。

ここで一番お伝えしたいのは、保険診療の良し悪しではありません。クリニックを開業し、経営を20 年、30 年と続けていく中で、世の中の環境
変化も重なり、経営方針を見直す時期は、必ずやってきます。その見直しの際に、「しまった」と思わないために、経営の側面で、保険診療がどんな立ち位置なのか、自分が今やっていることはどんな効果があるのか、考
慮に加えていただきたいということです。

また、集患するというマーケティングを切り口に話をすると、4観点のメリット(クリニック起業術参照)が、密接に関わってきます。自分、スタッフ、患者、地域、それぞれにとって自院はどういう存在でありたいのか。つまり「創りたい自院のブランド」、すなわち、ブランディングのフェーズです。

保険のクリーニングを例に挙げると、患者さんが「歯石がついてきたから、保険でクリーニングしてくれる○○医院に行こう」というイメージを持っているのであれば、医院側の意図にかかわらず、そのようなブランディングがなされているということになります。
そのブランドイメージから、保険のルールが変わったからといって、急に自費のクリーニングを勧めしようとしても、なかなかシフトするのは困難なことだと思います。

ここまで、経営における保険診療の影響を解説してまいりました。(別記事:歯科医院売上の構造
では、実際に、この保険診療の特性を活かし、自費診療(したい診療)をどう経営に位置付ければよいのか。その自分の答えをもって、開業を迎えたいとこです。

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